伝説の敵

第二章 第八節

 部族の地である荒涼とした平原から、イーヴはいつも西の方を眺めていた。そこには、「大いなる敵」が()まうジャンザビがあったからである。そのさらに向こうに港町があることは聞き知ってはいたが、よもや訪れることがあろうとは思ってもみなかった。

 想いもよらぬ光景と、()いだことも触れたこともない風に、イーヴはただただ呆然とするばかりであった。

 まず一番驚かされたのは、「海」というものである。たくさんの水から成る海は、空のように青いと聞いていた。そこから海というものを想像していたのだが、やはり海と空は別物に違いなかった。海はきらきらと輝き、うねり、底知れぬその身内に、何かを(はら)んでいた。塩気を帯びた、独特の匂いのする風は、ここから生まれているという。

 海にはいくつかの大きな船が浮かんでいた。クリステルによれば交易船であるという。その船と岸辺の間を、たくさんの小舟が往き来している。岸から船へ、あるいは船から岸へ、交易品を運んでいるのだそうである。なんとも面倒なことだとイーヴは思った。

 海に面する陸地側は、海に向かってなだらかに傾斜し、建ち並ぶ建物が階段状に見える。建物はどれもこれも白く、空の青、海の青と(つい)を成して、美しい光景を現出せしめていた。

 高所にあるギュベール家の別邸からは、その様が良く見て取れた。

「海に行ってみてはどうですか?」

 テラスから景色を眺めていると、邸の内からクリステルが声を掛けてきた。

 振り返って見れば、机の上にたくさん積み上げられた羊皮紙の間から、クリステルが顔を(のぞ)かせていた。笑顔を浮かべているものの、疲労がありありとあった。

 それもそのはずである。ここ、ブランドシェにやってきて一週間、ほとんど徹夜で調べものをしている。それもたったひとりでだ。禁書は貴族にしか読めぬ古語で記述されているため、イーヴには読めない、また、その性質上他の者には読ませられない――となれば、クリステルとレイモンが調べるより外無いのだが、レイモンは他の仕事で忙しいらしく、クリステルひとりが頑張っているという有様(ありさま)であった。

 イーヴとしては、一刻も早くジャンザビについて知りたい。もっと情報が欲しい。

 レイモンから聞かされた話は、あくまで彼の推測とはいえ、恐ろしいほどに説得力があった。その内容はイーヴの想像を超えていただけでなく、唖然(あぜん)とするほどに残酷でもあった。

 もしレイモンの話が正しいとすれば、エク族の戦士たちは無駄に命を落としたことになるではないか。

 勇者の(あかし)を持つほどの偉大な戦士たちが、自らの力を示すこともできずに()ちていったと思うと、イーヴは胸が裂けるほどの悲しみと、(むな)しさとを覚えた。

 何より彼らが求めた「大いなる敵」が存在しないだろうということ、しかもその伝説の発端(ほったん)が、己にあるだろうことは、もはや悲劇を通り越して喜劇である。

 レイモンの言葉を信じるか信じないかと問われれば、「信じない」と答えるだろう。

 だがおそらくレイモンの言葉は正しい。

「ジャンザビにはまだ多くの秘密がある。王家の書庫にはそれらを記した書物がある。それを調べれば何か新たな事実が判るかも知れない。イーヴ、諦めるにはまだ早いと思うよ」

 レイモンはそう言った。その心遣いは有り難かったが、調べるということで、果たしてこれは(くつがえ)せるほどのものなのか? とも思う。

 クリステルはまだ何も教えてはくれない。

「今話してもただの推測になります」

 そう言って、毎日時間の許す限り書庫の資料と向き合ってくれている。

 期待と、恐れ――。

 そうした気持ちがいつも心の中にあった。

 クリステルはそれを察してくれているのだろう。それがゆえの頑張りなのだろうと思う。

 嬉しい気持ちと申し訳ない気持ちが()()ぜになり、イーヴは己に対する苛立(いらだ)ちを覚えた。己のことであるというのに、何も手伝えないのが腹立たしかった。

 手持ち無沙汰(ぶさた)なイーヴに、クリステルはあれこれと気を回してくれる。そこら辺を散策してみてはどうか、海に行ってみてはどうかと、声を掛けてくる。

 イーヴはその(たび)に断った。己のために尽力(じんりょく)しているクリステルを置いて、遊ぶわけにはゆかぬ。

 それに、実際のところは手持ち無沙汰にしているわけではない。時間のあるときは常に鍛錬をするようにしているのだ。実際、ここに来てからは生活の雑事がないだけ、村に居たときよりも鍛錬の時間は長く取れるとすら言える。

 そうしてクリステルに付き合っている他は、邸の中庭で素振りをしているか、レイモンに話を聞かせているかくらいのものであった。

 レイモンは、現在からイーヴの時代までのことを、つまりは未来のことを熱心に聞きたがった。それは興味本位と言うよりも、何かに()かそうとしている風だった。レイモンに話をするまで考えてもみなかったことだが、なるほど確かに、未来に起こることが判っていれば、有利に物事を進めることができるだろう。周囲の情勢になど、とんと興味を向けたことのなかった己の話が、どこまで有用かは(はなは)だ疑問ではあるが。

 そういえば今日はなぜかクリステルの話になった。

「君はクリステルをどう思っているのかね?」

 などと聞かれて返答に困った。

 どうと聞かれても何も無いのだ。

 それに質問の意図も(つか)めない。

 しかし今考えてみるとあれは、少しはクリステルを気遣ってみてはどうか、ということではないだろうか。親父なりに娘の身を案じてのことなのではないだろうか。

 クリステルの頑張りようは尋常ではない。それは傍目(はため)にも明らかだ。このまま続けていたら倒れてしまうに違いない。

 それなのに己は、気遣うどころか甘えていたのではないか。彼女を止められるのは、依頼者である己しかいないというのに。

 だから、ここは彼女の提案を受け容れようと思った。

「……そうだな。行ってみようか」

 クリステルは少し驚いたようにイーヴを見た。初めてのことだからだろう。

「では、リリィに案内させましょう」

 言いながらクリステルは呼び鈴に手を伸ばした。

 が――

「待て!」

 イーヴは(あわ)ててそれを制した。

 あの小娘を呼ぶなど冗談ではない。

 きゃっきゃと猿みたいに騒がしく落ち着きが無く、それだけでもうんざりだというのに、なぜかは判らぬが、どうもあの小娘は己を目の(かたき)にしているようなのである。

 ──どうもあいつは苦手だ……。

 相性が悪い、というやつなのであろうか。

 そもそも都のギュベール邸にやってきたその日から、その徴候は現れていた。

 リリィはクリステルが席を外してふたりきりになると、

「当家のお嬢様は、そのご容姿、ご頭脳、ご性格、何をとってもまったく非の打ち所の無い、素晴らしいお嬢様ですっ。たくさんの、やんごとない殿方(とのがた)からご求婚いただいておりますっ」

 イーヴを(にら)みつけながら、いきなりそう言ってきたものである。

 主人自慢を(かさ)に、何か腹立ちをぶつけたらしかった。

 何かの八つ当たりだったのかもしれぬ。

 しかし何で己がその対象にならなければいけないのか、イーヴは理解に苦しんだ。

 ともあれ嫌われていることだけは判った。

「……あいつは呼ばなくていい。お前が案内しろ」

 クリステルは驚き、怪訝(けげん)な顔をした。

「わたくしは調べものがありますから……」

「いくらなんでも(こん)を詰め過ぎだろう。少し休んだ方がいい」

「ですが……」

「俺がいいと言っている」

「……」

 クリステルはなおも躊躇(ためら)っているようだったが、やがて含羞(はにか)むように微笑した。

「……では、お言葉に甘えて。準備してまいりますので、少々お待ち下さい」

 読んでいた書物を閉じ、(かたわ)らの羊皮紙の束に重石(おもし)を載せると立ち上がった。

 そのまま部屋から出て行こうとするので、

「準備なんぞはいい。そのままでいい」

 イーヴは引き留めた。

 準備というのは着替えのことに違いなかった。

 それはもう、毎日の、セドリック王子とやらの幽閉先への訪問で判っている。

 外出するとなると外出用の服に着替え、それから家に帰ると今度は室内用の服に着替えるのだ。それもたっぷりと時間を掛けて。

 息抜きに行くというのに、そんな馬鹿くさいことには付き合ってられない。

「こっちへ来い」

 イーヴは部屋の出入口とは反対方向に、テラスの縁へ向かった。

 クリステルが(いぶか)しげな顔でやってくると、イーヴは二階にあるこのテラスから、手摺(てす)りを越えて下に飛び降りた。

「っ!」

 クリステルの息を呑む声が聞こえた。

 イーヴは難なく着地し、二階のクリステルを振り返った。

 クリステルは呆然とこちらを見ていた。

「お前もだ」

 と言ってやると、クリステルは驚いた。

「わ、わたくしも同じことをするのですか?」

「受け止めてやるから大丈夫だ」

 下から見上げてイーヴは両腕を開いた。

「え……」

 クリステルは顔を(あから)めた。

 イーヴは訝しんだ。なぜここで顔を赤くする?

「あの……なぜこんなところから?」

「ふたりきりで行きたいからだ」

 クリステルの顔がさらに赤くなった。

 イーヴはさらに訝しんだ。

「堂堂と表から出て行くとなれば、お付きの者がぞろぞろ()いてくるだろう? お前はそれでもいいかも知れんが、俺は鬱陶(うっとう)しい」

「……あ、そうですか」

 何やら少し残念そうに言う。

「お付きが居ないと駄目なのか?」

「いえ! 全然そんなことはありません!」

 クリステルは首まで振って、強く否定した。

 にも(かかわ)らず、何やら恥ずかしそうに(うつむ)き、一向、飛び降りる気配が無い。

 イーヴは少し苛立(いらだ)った。

「おい、どうした? 早くしろ」

 ()かすと、クリステルはびくりと体を(ふる)わせた。

「……あ、あの……わたくし、この恰好(かっこう)ですから……飛び降りると脚が……」

 クリステルは白いドレスを着ている。

「む……そうか」

 飛び降りるとドレスが(めく)れて脚が見えると言いたいのだろう。

 面倒だなと思った。

「そしたら、体を横にして落ちろ。それならいいだろ?」

 クリステルは顔を(あから)めたまま、少しの間を置いて、こっくりと頷いた。

 なんだか可愛(かわい)らしいな、と、イーヴは内心苦笑した。

 クリステルは、手摺(てす)りに腰掛けながらそれを乗り越え、体を横にして仰向けに落ちた。

 イーヴはうまく受け止めた。横向きのまま抱き上げるような形になった。

 クリステルを見ると、間近で目が合った。

 クリステルの顔がさらに赤くなった。耳まで赤い。

 何やらイーヴも恥ずかしくなって、そそくさとクリステルを下ろし、顔を()らしながら離れた。

「……行こうか」

「……はい」

 

   *

 

 (こん)を詰めていたのは、彼のためばかりではなかった。むしろ自分のためだった。

 

 ――私が彼を引き留めたということが一番なのではないかね?

 

 父があんなことを言うからだ。

 確かに自分は、彼が(とど)まってくれたことに安堵した。喜んだ。彼にはどこにも行って欲しくないと思っている。

 しかし、こうした状況は、今だけの一時的なものでしかないだろうとも思っている。

 彼はひとつところに留まれるような男ではない。あの山で「大いなる敵」を求めて彷徨(さまよ)ったように、何かを求めて彷徨い続けるのが、彼という存在なのではないかと思うのだ。父のあまりにも残酷な仮説が真実だとしても、彼は彼自身の「大いなる敵」を求めてどこかへ消えてしまうのではないかと思うのだ。

 だから、彼が自分の(そば)に居てくれる今この時は、とても(とうと)い時なのだ。

 この時がずっと続けばいい。

 そう思う。

 彼を長く引き留めることならできる。

 彼が今留まっているのは、ジャンザビのことを知りたいがためなのだ。王家の禁書に書かれてあるであろうそれを、知りたいがためなのだ。

 彼は古語が読めない。彼に協力的で、なおかつ王家の禁書を閲覧できるのは、自分と父以外にいない。そして、その父は自分に協力的で、調査しているのは自分ひとりだけだ。

 となれば、彼を(だま)すことなど、容易(たやす)いことだった。

 頑張っている振りをして、怪しまれぬくらいにだらだらと調査し、何かが判っても口を(つぐ)んでいればよいのだ。

 王家の禁書はかなりの量がある。無論、ジャンザビに関する部分はそのごく一部に過ぎない。実際のところ、後一週間くらいで調査は完了するのではないかと思う。

 しかし自分が(しゃべ)らなければ、彼には判らない。彼が判るのは、見たままの、禁書の総量だけだ。引き延ばそうと思えば、一年は引き延ばせるに違いない。

 それだけの時間があれば、何かしらの可能性が生まれてくる余地もある。

 人の心に形は無い。それがゆえに移ろいやすい。地位や身分、姿形や環境という型に()め込まれて、無形(むぎょう)の心、真の己自身を保つのは、とても難しいことなのではないか。王らしくしていれば王になるし、騎士らしくしていれば騎士になる。

 それが善いことなのか悪いことなのかは判らない。しかし、人は(やす)きに流れるものだ。型に嵌ってしまった方が楽であることが多いし、形有るものは判りやすい。

 例えば一年間。それだけの長い間、貴族の休養地であるここ、ブランドシェで、自分の傍に居続ければ、彼の心に何かしらの変化が生まれる可能性が、まったく無いということは無いのではないかと思う。

 しかし、それを望む一方で、彼の心変わりなど見たくもない、そんなのは彼ではない、彼が心変わりするはずがないと思っている自分もいる。

 まったくもって身勝手なものだが、自分でも自分がよく解らない。

 ともあれ、彼を騙してできるだけ長く引き留めるということには、強烈な誘惑がある。

 それはとても(ずる)いことだ。彼に対する手酷(てひど)い裏切りだ。彼は自分を信じて下山してくれたのに。

 しかし、そうと解っていても心は揺れる。そんな自分に吐き気がする。

 それがゆえに、根を詰めて調査に没頭するのだ。そうしていれば何も考えずに済む。誘惑に心揺れることも無い。彼のために頑張っているのだと、自分自身を騙すこともできる。

 彼と共に居る時間を、失うことになってしまうが……

「おい、揺らすな!」

 クリステルは我に返った。

 大海原に揺蕩(たゆた)う小舟の上である。イーヴが小舟の(へり)獅噛(しが)み付いてる。

 クリステルは笑った。海に出てからのイーヴは、始終そんな様子なのだが、何度見ても笑ってしまう。体格の良い屈強な戦士が、顔を引き()らせてそうしている姿は、あまりにも滑稽であった。

「わたくしは揺らしてませんよ。恐いのですか?」

 意地悪そうに問う。

 イーヴはむっとした。

「恐いものか。……ただ、海は初めてだからな。訳が分らんだけだ」

 言っていることが意味不明である。

 ともあれそうして虚勢を張る姿もまた、えらく滑稽であった。

可愛(かわい)らしいですね」

 クリステルは微笑んだ。

 イーヴの目が点になった。

「なっ……! 俺は戦士だぞ! 戦士に向かって『可愛い』とはなんだ!」

 イーヴは憤然として顔を(あから)めた。

「でしたら、戦士らしくなさったらどうですか?」

「む!?」

「そんな風に獅噛(しが)み付いていたら、戦えないではありませんか」

 イーヴはクリステルを(にら)みつけた。

 クリステルは意地の悪い微笑みで(こた)えた。

「見てろ……」

 イーヴは恐る恐る舟縁(ふなべり)から離れた。ゆらゆらと揺れる小舟の上は不安定である。両手を拡げ、()()り腰で立ち上がろうとする。なんとも情けない恰好(かっこう)であった。その上本人はえらく真剣な様子なので、これまた笑いを誘わずにはいられない。

 と――

 大波が来た。

 小舟が大きく揺れた。

 ふたりはそれぞれ悲鳴をあげた。

 バランスを崩したイーヴが持ち直そうとして、なおも小舟は揺れ続けた。

 てんやわんやの末に、気が付けばイーヴは仰向けに転がり、その広く(たくま)しい胸の中に、クリステルが顔を(うず)めていた。

 体勢的には、ジャンザビでクリステルが足を滑らし、イーヴがそれを受け損なったのと同じである。

 しかしクリステルは顔を(あから)めながらも、胸を高鳴らせながらも、今度は離れる気は無かった。我ながら嫌らしいと思いつつ、これ幸いとばかりにくっ付いていた。イーヴの体温を、存在を、感じていたかった。

 イーヴは戸惑っているようだった。クリステルに離れて欲しい気配を出していた。だがやがて諦めたようだった。

 ゆらゆらと揺り(かご)のように揺れる小舟の中で、微睡(まどろ)みを誘う午後の陽射しを浴びながら、ふたりは(しばら)くそうしていた。

「……流されて、ないか? ……いいのか?」

 イーヴが躊躇(ためら)いがちにささやいてきた。

 少し微睡(まどろ)んでいたクリステルは、静かに目を覚ました。

 確かに流されていると思う。

 だが確かめる気はない。

 そんなことはどうでもいい。

「このまま流されても……戻れなくなっても……別によくはありませんか」

 そんな言葉が口を()いて出ていた。

「行く宛てなんて……戻れる場所なんて……どこにも無いではありませんか」

「……」

 風が吹いていた。細波(さざなみ)が立ち、小舟をたぷたぷと叩く。小舟がゆらゆらと揺れる。

「あなたはもう、元の世界には戻れません」

 ゆらり……

「太陽が二つの時には決して入山してはならない」

 ……ゆらり

「禁書にはそう書かれてありました」

 ゆらり……

 クリステルは(おもむ)ろに身を起こし、イーヴの両肩の上の辺りに手を着いて、イーヴの灰色の瞳を(のぞ)き込んだ。

「ここに、居られませんか?」

 クリステルの金髪が(ほつ)れ、微風(そよかぜ)(なび)いた。

 イーヴはクリステルを見つめ返した。

 その目はひどく冷えていた。

「戻るべき場所ならある」

 小舟が大きく揺れた。

「『大いなる敵』が存在しないのなら、俺はジャンザビに戻らなくてはならない」

 ゆらゆらと揺れる。

「この先、戦士たちはジャンザビに入山する。俺はそれを阻止しなければならない。俺は彼らに真実を告げなくてはならない。戦うために生まれた戦士が、むざむざと消えて良いわけがない」

 クリステルは青冷めた。

 歴史が彼を取り込もうとしている。

 そう感じた。

「もしも……もしも、彼らが聞く耳を持たなかったら?」

 イーヴは苦苦(にがにが)しく微笑んだ。

「その時は……戦うしかないかもな」

 クリステルは戦慄(せんりつ)した。

 それこそまさに「伝説」の完成である。

 ひどい眩暈(めまい)がした。眉間(みけん)(しわ)を寄せて、目を(つむ)った。

 (しばら)くして目を開き、

「もう少し待って下さい。もう少し調べれば、何かが判るかもしれません」

「……ああ」

 イーヴは静かに目を閉じた。

 ふたりを乗せた小舟は、いつまでも揺れていた。

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