あくまでも
それでも何故かどきどきしてしまう。
宴のための正装をし、ダーシュの正装を見たら、いよいよ落ち着かなくなった。
頭は布で覆われ、長い黒髪はそのまま垂らされていた。風通しの良い、白い木綿着は変わらないが、金の首飾りをしている。
いや、アウラシールのというよりも、アンケヌの正装であるというのが正しいのかも知れない。この広大なアウラシールには、様々な都市があり、様々な部族民がいる。それぞれの習俗もまた様々なのだ。
無論、ダーシュ自身が持ち込んだ衣装ではない。ヒスメネスが用意したのである。宴が済んだら返すことになっている。
妻がきちんとした
ともあれ、アウラシールの正装はダーシュに似合っていた。いや、アウラシール人なのだからそれも当然なのだろうけれど、それだけではなく、きちんとした恰好をしている方がむしろ自然に見えた。きっと、元はそれなりの身分であるに違いない。
一方アイオナは、当然ながらローゼンディアの正装であった。ローゼンディア織りの裾の長い
ダーシュはそんなアイオナを品定めするように見、我が妻としてはまあ
そのまま落ち着かぬ気持ちで祝いの席に着き、結婚報告をして皆からの祝福を受けると、もしかして本当に結婚してしまったのではないかと妙な気分になった。
宴から引き上げて自室に戻ると、今までアイオナが使っていた寝台が撤去され、代わりに二人用の大きな寝台が用意されているのが、暗がりの中にうっすらと見えた。
アイオナは思わず息を呑んだ。
もちろんこれは見せかけのものである。この部屋で寝るのはアイオナ一人である。万が一宮殿から
ダーシュがこの寝台を使うことはない。
にも
と、急に背後で扉が閉まり、アイオナは飛び上がりそうになった。
振り返って
別段驚くことではない。本来ならば。
本来ならば、夫婦は二人一緒に引き上げてきて、同じ部屋に入るのだ。
アイオナの緊張した顔付きを見て、ダーシュは意地の悪い笑みを浮かべた。
「お前、期待しているのか?」
アイオナの顔がぱっと赤くなった。
「そんなこと、かっ考えてないわよっ!!」
ダーシュは
首飾りは結構な重さがあった。ダーシュは宴の間中これを着けていたのだから、肩が
黙って差し出すそれをアイオナは受け取った。後でヒスメネスに渡すのだ。
「すまんが俺の剣を返してくれるか?」
宴の前に、剣はアイオナの部屋に移されていた。アウラシールの
本来ならば、だ。
アイオナはつかつかと歩き、寝台の脇に立て掛けておいた剣を取ってダーシュに手渡した。
「さあ、これで用は済んだでしょ。さっさと出て行って」
「ああ」
ダーシュは剣を腰に差した。
「早速だが夫としてお前に言っておくことがある」
再び心臓がどくんと動いた。
「何よ」
つっけんどんな口調になってしまったのが腹立たしかった。ダーシュはきっと気付いただろう。そう思うと今度は恥ずかしくなってきた。
「何よ。用があるなら明日にして」
「お前、今日はもう部屋から出るな」
「どうしてよ?」
出るつもりなど元から無いが、反論するような言い方になってしまった。
「理由は後で判る」
それだけ言い置くと、ダーシュは歩き去ってしまった。
庭の
ダーシュの部屋の扉が閉まる音が聞こえて、アイオナは
何故だか急に気分が落ち込んだ。選択を間違ってしまったような気がした。
いや、間違っていたのは選択ではない。手順だ。
結婚自体は
そういえば、ダーシュは酒をほとんど口にしなかった。
何か気に入らないことでもあったのだろうか?
そつ無く宴の
そう思うと悲しくなった。急に泣き出しそうになり、アイオナは寝台に倒れ込んだ。そのままじっとしていた。
努力が空回りになることには慣れているけれども、今回のはかなり
*
アイオナにはちょっと
状況を説明してやるべきだったかも知れぬ。だが話せば、あの女の性格からして黙っているとは思えない。何かと問題になる可能性が高い。
何より用心すべきはあの
今夜は剣は手放せない。
ダーシュは月を見上げた。庭には
忙しい夜になりそうだった。