少しでも防備を固めるべく、見張りを立てつつ作業にあたった。
まずはジャグルの攻城具を分解し、防壁に加工した。
三つとも広場に配置するという手もあったが、もしも敵にゴロドが居る場合には、こんな防壁など何の役にも立たぬ。ゴロドが襲えばひとたまりもない。
敵がジャグルの群だけならば、防壁は、取り敢えず一つあれば何とかなる。先程と同じく乱戦になるに決まっているからだ。
雪の中、寒さは厳しく、短い時間で交替をさせながら作業にあたった。
今度は村内を歩き回る必要がないので、
正門はしっかりと閉じたが、もしもゴロドが攻撃してくれば一撃で破られるだろう。
敵がジャグルのみの場合でも、正門に
ジャグルがそれを
いずれにしても今回は、あまり動き回らず、拠点守護の作戦で行く。
全滅するか、それとも生き残れるかは、神のみぞ知るところである。
村人たちには話していないが、援軍が来るのは夕方頃と考えられる。
男が村を
どんなに早くとも、日没まで一刻半の時を切ることはないだろう。
そしてジャグルどもが日中に襲いかかってくるとは考えにくい。こちらから戦闘を仕掛けたのなら別であるが、ジャグルどもが好き好んで昼間に戦闘をするとは考えられない。
ゆえに、ジャグルが襲ってくるのは日が昇る前、今夜の内だと予想できる。
つまり援軍をあてにすることはできない。
先程グレシオスは「この戦いが終われば援軍が来る」と言った。それは嘘ではない。
問題は、この戦いが最後になり、最後まで自分たちは、援軍無しに戦わなければならないということだ。
グレシオスは神官館の前に立ち、暗闇の中、
「ゴロドは現れますでしょうか?」
メグレイスが
「おそらくな」
グレシオスも呟き返した。メグレイスの方は見なかった。
何か、気配が返ってくるかと思ったが、何も感じられなかった。
つまり、
「ともに戦うことをお許しください」
「こちらもそのつもりよ。ゴロドがおれば、長神官殿の手を借りる他ない」
「光栄でございます」
「……
グレシオスとタデアスが中心になって、対ゴロド用の槍投げ隊を編成する予定である。
ゴロドが現れない場合には、そのままジャグルと戦う前衛になるが、その際には連絡を坂の入口を固める部隊に飛ばし、増援を回させるつもりである。
「作業が終わったら、村人を半刻交替で休ませてやれ」
「かしこまりました」
タデアスは作業の監督をしている。先の戦いで兵を伏せた小屋から、さらに木材を持ってきている。なかなか本格的に防壁を構築するつもりのようだ。
坂の入口の方でも作業をしている。ここにまで、物音と気配が伝わってくる。
あとどれくらいでジャグルどもが到着するのか判らないが、防壁作りが終わるまでは来ないで欲しいものだ。
「
メグレイスが
「いや――」
グレシオスは反射的に断ろうとし、しかし考え直した。
己がこのままここに立っていたとて、何の意味があるものでもない。
敵襲があれば、起こしてもらえばいいのだ。
若武者ならば起きたまま備えるというのもありかもしれぬが、己は老人である。虚勢を張って無理をすることはない。
己なりに、もっとも効率的に戦えばよいのだ。
「そうだな……では一刻経ったら起こしてくれ」
「かしこまりました」
「必ずだぞ」
メグレイスに念を押し、グレシオスはヨルスの館に向かって歩き始めた。
道に出ると、たちまち雪が降りかかってくる。
小さな、軽い雪だが一向に降りやむ気配がない。
タデアスは防壁の
「タデアス」
「はっ」
振り向いた顔が白い。気合いは十分だが、
「儂はこれから仮眠を摂る。お前も付き合え」
「大殿は
「付き合え、と言ったのだ」
「はあ……」
グレシオスは
「自分の
「ですから大殿はお休み下さい」
グレシオスは
「お前な、儂一人ではばつが悪いではないか。だから「付き合え」と言ったのだ」
耳元で
「わかりました。そういうことでしたらお付き合いいたしましょう」
「すまんな」
無論、タデアスを休ませるための言い訳である。
こうでも言わなければ、タデアスは休み無しに働き続けることだろう。
その結果、いざ戦いが始まったときには体力を使い果たしているかもしれない。
タデアス自身、
にもかかわらず頑張りを見せるのは、意地と責任感、何より戦場に
グレシオスが悟ったように、タデアスもいつかは、それもそう遠くない先に、老いの事実を悟り、受け入れることになるだろう。
だが今はそれを語り
強引にしてでも、己の方で気遣ってやるしかないのだ。
「村の衆も交替で休むようにな。詳しくは長神官殿に聞け!」
ヨルスの館では、すでに休憩を取りに集まった村人達がいた。火の
ごろ寝用の毛皮を貸してくれるようヨルスに言うと、
「大殿様はどうぞ息子の部屋でお休み下さい」
と言われた。グレシオスはここでも意地を張ることなく、すなおに従うことにした。
タデアスはヨルスの部屋を借りることになった。
装飾のない、しっかりとした作りのベッドに倒れ込むと、猛烈な睡魔が襲ってきた。
火が燃える音が急速に遠ざかっていく。
身体がふわりと浮かび上がるような心地がしたと思うと、そのまま意識が吸い込まれていった。